【Exclusive Interview】Part 1: Richard Forsyth OBE – Forsyths
- 造り手
- 樽・蒸留器・倉庫
今回は、東北最古の地ウイスキーメーカーである笹の川酒造・安積(あさか)蒸溜所へ独占インタビューを行いました。
独占インタビューでは、歴史ある笹の川酒造を守る代表取締役の山口さんと、ウイスキー造りの根幹を最前線で支え続ける製造担当の黒羽さんにお話をお伺いしました。
日々の中で笹の川酒造のお酒を楽しむだけでは知ることの出来ないことが多い、「安積」という町や歴史、ウイスキー事業のきっかけとなった裏話まで、熱い想いとともにお伺いしました。
今までのウイスキーの味の感じ方ではない、歴史や裏話を知ることでまた新しい「味」を感じられるかと思います!
ぜひお楽しみください!
笹の川酒造 安積蒸溜所は、福島県にある安積平野の安積疎水が流れる場所に位置し、酒蔵としての歴史は300年を超え、猪苗代湖の南に創業した1710年(宝永7)にさかのぼります。笹の川酒造創業初代・朝之丞宗友より10代目の代表取締役山口哲蔵さん(襲名前 哲司)は、「風の蒸溜所」という言葉のもと事業を営んでいます。
東北最古の地ウイスキーメーカーである笹の川酒造・安積蒸溜所では、2014年に蔵の中で眠っていた笹の川酒造のウイスキーが目を覚まし、「YAMAZAKURA」としてリリースされました。2016年冬に始動した歴史ある蒸溜所、それが『安積蒸溜所』です。
会社 | 笹の川酒造株式会社 |
創業 | 1765年(明和2年) |
場所 | 福島県郡山市笹川1 丁目178 |
代表取締役 | 山口 哲蔵 |
公式ホームページ | 笹の川酒造安積蒸溜所公式ホームページ |
Dear WHISKY:
安積平野とはどのような場所なのでしょうか?
山口さん:
まず安積の歴史についてからお話したいのですが、安積という場所は万葉集に登場するくらいには非常に古い場所で、昔は「安尺」と書いて「あさか」と呼びました。もともと、安積平野という場所は水の便が悪く、明治期に安積疎水を引いたことで米作りが盛んになりました。この安積疎水を引くもとになった開拓事業を行った会社が開成社というのですが、実はそのメンバーの1人に私の祖父がいました。そのような背景のもと明治期からの歴史があるのがこの弊社です。
また、安積という場所は冬は寒くて夏は暑いというような、いわゆる盆地の特徴があります。
Dear WHISKY:
安積蒸溜所は「風の蒸溜所」と名付けられていますが、安積平野特有の磐梯颪(ばんだいおろし)と呼ばれる季節風と関係はありますか?
山口さん:
もともと風は「風の酒蔵」という言葉から始まっています。仰るような「季節風」のような風もそうですし、「風土」「風通し」や「風景」など、様々な意味のある『風』というところで、「風の酒蔵」と名づけ、蒸溜所が完成したときも同じ想いから「風の蒸溜所」と名付けました。
Dear WHISKY:
1946年にウイスキー免許を取得してから約80年ほどになりますが、そもそもウイスキー事業に挑戦しようとなったきっかけはなんですか?
山口さん:
ウイスキー事業を始めたのは私の祖父なので聞いた話になります。ウイスキー事業を始めたのは1946年で終戦直後でしたので、お酒を造る米がありませんでした。ただ一方で、軍用で造っていたアルコールが残っていました。このアルコールをそのままアルコールで売るわけにもいかないなと考えたときに、周りを見渡すと進駐軍の方が大勢いて、その時に祖父が、「ウイスキーだ!」と閃いたそうです。
Dear WHISKY:
その時あったアルコールをどのように転換していくかというところで誕生したのですね。
山口さん:
そうですね。ただ問題があって、税務署にウイスキーを造りたいと申請を出したのですが、ウイスキー免許がなかなか降りませんでした。しかし、私の祖父は諦めずに、酒税局で局長をしていた、のちに総理大臣になる池田勇人さんに直接お願いに行きました。池田さんは私たちのような産業を推奨していたようで、さらに弊社のウイスキーのサンプルを持って行ったところ非常に好評だったことから、1~2週間で免許が下りました。実はウイスキー事業誕生にはこのような背景もありました。
Dear WHISKY:
歴史のある笹の川酒造様の中で、創業250周年を機に設立された安積蒸溜所の特徴はどのようなところにありますか?
黒羽さん:
まずは安積蒸溜所の設備ですね。もともとあるお酒の保管蔵であった3番蔵というものがあったのですが、そこを改装して蒸留器などを導入しました。導入した蒸留器のサイズが国内最小クラスで、蒸留器が2,000リットルで再溜器が1,000リットルしかありませんので、1日に200リットルしか造れません。
Dear WHISKY:
1つ1つを丁寧に造っているのですね。造る中で意識していることはありますか?
黒羽さん:
設備や造り方自体は特に珍しいものはしていません。三宅製作所の銅製ポットスチルを使用し、ウォッシュバックについては2019年にステンレスから木製の発酵タンクに変えました。本当にオーソドックスな伝統的な、スコットランドのウイスキー造りに基づいた造りをしています。伝統的な造りを忠実に行っている蒸溜所です。
Dear WHISKY:
2022年12月に東京で行われたジャパニーズフェスの際にお話をお伺いした時に、出来るだけ幅広い幅広い皆さんに飲んでいただきたいという想いをお聞きしましたのですが、『親しみやすいウイスキー』とはどのようなものですか?
山口さん:
味に片寄りがあると、好みが分かれてしまいます。だからこそ、「多くの皆さんに楽しんでもらえるウイスキーであればそれで良い」というコンセプトで造っています。オーソドックスで伝統的な造り方で出来上がったものが、「親しみやすいウイスキー」であれば心から嬉しいです。
また、ピートが効いているものは癖があることが多いですが、弊社のピーテッドは非常に飲みやすいウイスキーです。あとから香りは来るのですが、最初はそんなにガツンと来ないというのも特徴です。この特徴の背景には、冬は寒くて夏は暑いという気候もあっていると感じます。
Dear WHISKY:
東北最古の地ウイスキーメーカーとしてのウイスキーへのこだわりは何ですか?
山口さん:
私たちは、シングルモルトやシングルカスクだけではなく、ブレンデットも造っています。飲みやすさというところで、お客様目線というのを非常に意識しています。自分たちが造りたいからとにかく造るというのも大事ですが、それ以上に誰が飲んでくれるのかという部分が大事なのではないかと考えています。
実際に日本酒で行う鑑評会(かんぴょうかい)のようなものをウイスキーでも行っています。その中でそれぞれのウイスキーのイメージが徐々に決まっていき、商品として皆様の手元に届けられています。最近印象に残ったものでいくと、2022年にWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)に選ばれた「山桜 ブレンデッドモルト シェリーウッドリザーブ 安積」は丸みがあって非常に良いですね。やはり、なにより弊社のこだわりは、飲み手の立場に立って考え続けるということです。
Dear WHISKY:
特に「安積」の特長が出ているウイスキーは何になりますか?
黒羽さん:
2022年にリリースした「YAMAZAKURA シングルモルト 安積 2022 EDITION」ですね。こちらの商品は一言で言えば、バランスや調和のとれた味わいになっています。弊社のウイスキーとしては、最初に柑橘系の酸味やフルーティーな感じがあり、口に含むと結構ボディが厚いというか横の膨らみが非常に強いです。こちらは、香りは優しいのですが、飲んでみると芯があり飲みごたえのある味というところが特徴ですね。
先ほどお話したように寒暖差のある地域にある蒸溜所です。まだまだ最長で5年という若い方ではあるものの、風土や環境が磨きをかけて優しい香りと芯の味のある飲みごたえのあるウイスキーになっていると思います。
Dear WHISKY:
ついにジャパニーズウイスキー100周年の年になりますが、歴史ある安積蒸溜所の皆さんにとって今後100年にかける想いをお伺いしたいです。
山口さん:
ウイスキーというものは始めたらやめてはいけない仕事だと感じています。ウイスキーは時間が造るものだからこそ、この始めたらやめないという覚悟があります。そして、多くの方に楽しんでもらうということで、価格の部分も大事かと思います。弊社の「&4」というワールドブレンデットウイスキーがあるのですが、こちらはかなり価格を抑えています。このワールドブレンデットウイスキーは、原酒の割合の中で弊社の原酒の比率が一番多いです。これから先、覚悟をもって造るのはもちろん、ちゃんとしたものを造っていくことがなにより大事だと思っています。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りの最前線に立つ中で、ウイスキーの造り手としてかける想いはありますか?
黒羽さん:
私たちが造っているものが工場から出荷されたら終わりとは考えておりません。お客様に気に入って購入して頂き、喜んで飲んでくださることがなにより嬉しいです。僕らの中で良いものだとなるだけではなく、皆様にとって良いものでありたいです。お酒を飲むというラインナップの中に、弊社のお酒が加わって、そしておいしいと言ってもらえることを想像しながら、丁寧にひたむきに造り続けたいと思っています。
Dear WHISKY:
最後にDear WHISKYの読者にメッセージをお願いします!
黒羽さん:
ウイスキーは結構敷居の高い飲み物だと思われがちです。日本のクラフト蒸溜所も増えてきているので、まずは自分の出身の地域や逆に全くゆかりのない地などのウイスキーを、ぜひ1度飲んで頂きたいです。その中で、好きなポイントの何か1つ見つけて頂ければ、それに似たものはこれだというように横に広がっていき楽しいと感じると思います。まずは本当に手に取って頂きたいなと感じています。
山口さん:
イベントなどでよく何から飲めばいいのかとお聞きします。私としては、とにかく様々なものを少量でいいから飲んでみて欲しいです。色々なものを見て、飲んでいく中で、自分自身の幅や興味というものが決まっていきます。そして、自分の感覚に合うような、「これが美味い」と感じるようなものがあって、その中の1つの中に私たちの商品があれば心より嬉しい限りです。
以上、笹の川酒造 安積蒸溜所の代表取締役山口さんと製造担当黒羽さんへのインタビューでした。
「安積」という町の歴史やウイスキー事業のきっかけなどについて、お伺いすることができました。
今回の記事で、歴史や裏話を知りまた新しい「味」を感じられるでしょう。
お読みいただきありがとうございました。