スコッチウイスキーアソシエーション（以下、SWA）は、2022年のスコッチウイスキーの輸出額が約1兆円（62億ポンド）に到達し、過去最高額を更新したと2023年2月10日に発表した。 これは前年度と比較して37%の大幅な増加となる。 SWAによると、2022年はアジア太平洋市場がヨーロッパ市場を追い抜き、最大の輸出先となった。中でもインドは前年度比93%、シンガポールは50%の大幅な上昇を記録した。*¹
単位は百万ポンド、()内は前年度比増加率。
上のデータの中で特に注目されるのはインド市場だ。 インドはすでに世界第5位のスコッチウイスキー市場となっているが、それでもインド国内のウイスキー市場でスコッチウイスキーが占める割合は2%に過ぎない。 そのためインド国内においてスコッチウイスキーのシェアが増加する余地はまだまだ大きいと見られている。
しかしインドへのウイスキーの輸出は一筋縄ではいかない。 インドはウイスキーの輸入品に対して150%もの高額な関税をかける。*² この影響で海外産のウイスキーは非常に高額となり、インド国内でのシェアを獲得し辛いのが現状だ。
このような背景もあり、現状インドのウイスキー市場では輸入酒より、国産のウイスキーかIMFL（Indian-made foreign liquorの略。外国銘柄のウイスキーをインド現地で製造販売したもので、輸入酒より圧倒的に安い）が多く消費されている。
14億もの人口を抱える巨大なインド市場は多くの企業の垂涎の的となっており、今後いかにインド市場を攻略するかが当面各企業の関心事となりそうだ。
高い関税によってスコッチウイスキーの進出が阻まれる中、注目されているのはイギリスとインドのFTA交渉だ。 FTAとは国家間で結ばれる貿易協定のことで、FTAが締結されると多くの品目について関税が削減または撤廃される。 イギリスとインドは2022年1月にFTA交渉を開始しており、この交渉ではウイスキーにかけられる関税も重要な争点の一つとなっている。
SWAの予測によると、仮に関税が全て撤廃されればインドへの輸出は5年間で約2,000億円（12億ポンド）増加する。 スコッチウイスキー産業のイギリスに与える経済効果も約500億円（3億ポンド）増加し、全体として1兆円（60億ポンド）規模になることが予測されている。
しかし一方で、イギリス産の高品質ウイスキーがインド市場に自由に参入できるようになると、インド国内のウイスキー産業に大打撃を与えるという側面もある。関税によって国外製品との競争から保護されていたインド国内のウイスキー産業にとって、関税撤廃はかなりの痛手となる。 このようにFTA協定は両国民の利害が複雑に絡み合い関係してくるため、FTA交渉の行方は多くの人に注目されている。 英＝印のFTA交渉は2022年1月に開始し、同年12月に第6ラウンドが行われ、現在は第7ラウンドへ向けて動いている。最終的な結果が出るまでもうしばらく時間がかかりそうだ。
英＝印FTAについて
2022年はコロナによる不況からの回復の影響もあり、スコッチウイスキーの輸出量が大幅に増加した年となった。 特にインド市場では高い成長率とは裏腹にスコッチウイスキーの普及率はいまだに低く、イギリスとインドがどのような条件でFTAが締結するかが重要となってくる。 イギリス政府は、スコッチウイスキーの輸出を2030年までに160兆円規模まで増大させることも視野に入れていると表明している。 EU離脱以降多くの国との自由貿易を目指しているイギリス政府。環太平洋パートナーシップへの参加や各国とのFTAの調印などの野心的な取り組みがスコッチウイスキー業界にどのように影響するか、今後の動向が注目される。
出典 *¹ Scotch Whisky Association https://www.scotch-whisky.org.uk/newsroom/scotch-whisky-exports-2022/ *² 日本貿易振興機構（ジェトロ） https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/foods/exportguide/alcohol.html *³ Scotch Whisky Association https://www.scotch-whisky.org.uk/media/1966/ukindia-fta-priorities_jan2022.pdf
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